「常ならざる住まい」の未来形

「常ならざる住まい」の未来形

日本発、世界初の「ネットワーク・モバイル・エコビレッジ」をつくろう!
―動的な地域間市民連携が日本を救うー

① 「ネットワーク・モバイル・エコビレッジ」の必要性

住宅や都市というものは人の人生という常ならざるものをある期間、安心して快適に包み込むための常ならざる器である。

2011 年(平成23 年)3 月11 日の東日本大震災と原発の爆発を境に、世界中でパラダイムシフト(価値観の転換)が大きく始まりました。

津波や地震等の自然災害も甚大な被害をもたらしましたが、何と言っても原発の爆発事故は日本のような人口密集国で起きたという意味では、人類初の大災害(人災)ということがいえます。

日本には既に約50 基もの原発が存在しています。しかも、日本は大地震頻発国であり、首都直下大地震や東海、東南海大地震は今後数年から20 ~ 30 年の間に高い確率で起きることがわかっています。要するに、日本のどこでも今回の福島原発のような大爆発と広域エリアの放射能汚染が起こり得るということです。現在の日本には安全なエリアはどこにもありません。

今回の福島の事故では、地震にも津波にも耐え、無傷である建物や田畑も放射能汚染により使用不可能となり、その結果、放棄され、村ごと町ごとゴーストタウンやゴースト農村となっているところも多数あり、何千棟、何万棟という住宅や建築や土地までも一瞬にして財産価値を失ってしまったことに加えてそれまで培ってきたコミュニティもバラバラになり崩壊してしまいました。しかし、政府や行政や自治体レベルに期待するのは既に限界が見えてしまっています。そこで市民やコミュニティ、市民団体相互間の助け合いが不可欠です。このことに応えうる新しいパラダイムの村づくり、まちづくりのモデルづくりが急務です。

動的な地域間市民連携が要です。なぜなら災害救助法や災害対策基本法は、あくまで自治体(市町村)が災害対策本部をたちあげないと制度上機能しません。3・11では町ごと丸ごと津波に流され消失したり、放射能の被害を受けたため自治体が機能しない場合の問題点が露呈してしまったからです。そこで、ハードとソフトの両面を伴った解決策の実例モデル提示として「ネットワーク・モバイル・エコビレッジ」を提案します。例えばそのひとつは、ホビー仲間を中心に、クラブコミュニティをつくり、日常はビジネスや趣味などを通じて活発に交流し、非常時(災害時)等は、相互救助・避難協定等により、各エリア間も含め、メンバー相互に救助や支援、避難受け入れを行うことや、その時の具体的な場所や待遇等詳細までとりきめておくことなどで、市民やコミュニティ、市民団体相互による全く新しい形の安全社会保障をつくり出す考え方です。

もともとネットワーク・エコビレッジの考え方は、定住の責任感と住みかえの自由さをあわせもつ、ゆるやかな都市像、コミュニティ像(ゆるこみ)のあり方のモデルです。海、山、都会、農場、牧場 etc.に拠点を持ち、それぞれがエネルギーと食糧の半自給自足を前提としているので、そのうちのひとつ、ふたつの拠点が津波や放射能汚染等で住めなくなったとしても、容易に他の拠点に避難や移住ができ、しかも同じゆるやかなコミュニティの内側での移住のため、移住によりコミュニティが分断されることもないといった災害にも強いモデルです。

これにさらに、建築や家が移動できるトレーラーハウスやキャンピングカー等の性能を取り入れることで、使用後の仮設住宅がゴミ化するのを避けられたり、緊急的な応急避難拠点もつくれたりします。その可変性能、フレキシビリティは日常的機能としても大変すぐれていますし、災害時や放射能汚染などには特に有効でしょう。また、ゴムタイヤの上に建物がのっている構造のため高い免震性能がもともと備わっている点も重要です。

エコという意味でも、建築が移動可能ということはリ・ユースモデル(再使用可能モデル)という環境負荷の極めて少ないモデルです。

また発展的には、市民レベルでキャンピングカーやトレーラーハウスで災害現場に救助に向かうことも可能になりますし、このような方法でまちをつくれば、全体がモバイルタウンとなり、日常的にはエコタウンとして機能し、災害時には防災拠点としても機能する全く新しい「未来型防災エコタウン」としてのモデルとなる可能性があります。

さらに「ネットワーク・モバイル・エコビレッジ」の可能性は、他の地域、国(THERE)が自分の地域、国(HERE)になることを交互にくり返すことになることが決定的に重要です。地域(土地)は動かせませんがHERE(ここ)という認識は人間の移動と共に移動できるということがポイントとなります。

相手の地域や国との交流が活発になることをさらにこえて、相手が自分と重なってくるため対立や争いがなくなることにつながるためです。なぜならだれでも自分自身とは喧嘩や争いができないわけだからです。お互いを自分自身や自分の延長の地域として大切にすることにつながるからです。

また、中東地域などは紛争多発地域ですが、それは石油等の資源埋蔵地等の地域の特殊性から、きているといえます。世界各国がその資源に依存するような社会構造だから問題になるわけなので、特定の資源に依存しないような社会になればその地域は争いの地ではなくなるでしょう。

この意味でも、再生可能エネルギーによる自立(律)が大きなカギを握っています。

② 移動建築・移動都市の成立条件が整ってきた

建築や都市が土地に固定されたものだけであるという考え方は過去のものになりつつあります。その理由のひとつは、産業別人口構成の変化に見ることができます。

日本では昭和初期に第1次産業(農業、漁業、林業等)と第2次産業(建設、製造業等の工業)の合計割合は約7割で、第3次産業(サービス業等)は約3割であったのに対し、平成17年時点では比率は完全に逆転し、第3次産業が約7割で第1次と第2次を足した割合は約3割となりました。

第1次産業と第2次産業は、その地域や土地を離れては成立しない産業ですが、第3次産業(サービス業)は、むしろ地域や土地に必ずしも依存しない産業である故、比較的自由に地域間を移動することが可能です。この第3次産業が約7割になったことで地域間移動やコミュニティの柔軟性が高くなってきているといえます。さらに、インターネットの発達、普及で在宅勤務やオフィス外勤務が可能となり職業はますます場所にしばられなくなりました。これらのことはいずれも主要な先進国(フランス・ドイツ・イタリア・カナダ・アメリカ)についても同様の比率となっており世界的な傾向です。

すなわち「ネットワーク・モバイル・エコビレッジ」はますます世界的にも実現可能になってきているということを意味しています。

加えて、住まい方の変化とこれからの予想をみてみますと産業革命以降は職業は工場やオフィスで働き、家で休むという典型例のように、職と住は分離され、住まい方も欧米化によって個室化が進み寝食分離となりました。

しかし、今後はインターネットの普及や職業の生涯学習化、ライフワーク化等によって職、住、学、遊が融合し、さらに多拠点化(マルチハビテーション)することで、コミュニティも多拠点化し、かつ多重にゆるやかに結合する混成系のもの(ゆるコミ、またはレイヤーコミュニティ★注)になっていくと考えられます。